EV充電器設置で本当に客が増えるのか?最新の研究結果
ほとんどの場合、EV充電器の設置は赤字です。
それでも、設置する人や企業がいる理由の一つは、充電器を設置することで、EVユーザーを引き寄せる集客効果が期待できるから。
EVの充電時間は良くも悪くもガソリン車より長いので、その間に買い物をしたり、食事を取ったりすることで、充電器の近隣の店にお金を落とすことになります。
しかし、「実際に集客効果はどの程度なのか」「地域経済にどのように影響を与えるのか」は、これまで分かりませんでした。
そこでMITの研究者たちは、カリフォルニア州での実際のデータに基づいて、EV充電ステーションが地元の商店などに与える影響を分析。
その成果が9月にNature Communications誌に発表されたので、その内容を日本語のメディア・ブログでは初めて、ご紹介いたします。
どうやって分析したのか?
本研究の焦点は、充電ステーションの設置が周辺の企業に与える影響です。
分析の舞台となるのは、アメリカ カリフォルニア州。
ここは、アメリカでもEV普及が特に進んでいる地域なので(現在は新車の約4台に1台がEV)、こういった分析にはうってつけです。
期間は2019年、2021年―2023年。この期間でのEV充電器の増加が、周辺企業の状況にどのように影響を与えるかを分析しました。
「充電器が設置されるような地域は、もともとお金持ちが多いから、儲かるだけではないか?」
というようなツッコミに対応し、充電器設置の効果を因果的に推定するため、傾向スコアマッチングという方法で、似ている地域をマッチング。
その上で、EV充電器が設置された地域とそうでない地域で、近隣周囲500メートルの企業の売上等の推移にどのような差があるかを分析しました。
このような手法を、DID(差分の差)法 と呼びます。
それでは結果を見ていきましょう。
充電ステーション設置は、客数も売上も増やす
具体的には、充電ポートを一基増設することにより、
2019年には客数が0.21%増加し、売上が0.25%増加。その後の2021年から2023年にかけての期間では、効果はやや減少したものの、統計的に有意であり、客数は0.14%増加し、売上は0.16%増加したとのこと
アメリカの場合は、ある充電ステーションは平均約5つの充電ポートを擁しているとのことなので、
充電ステーションを一つ新設すると、平均的に、2019年に売上が1.4%増加、2021-2023年に売上が0.8%増加する計算になります。
というと、一見少ないように見えますが、
重要なのは、周辺500メートルの店舗それぞれでこのような集客効果がある ということ 。
さらに、周辺100メートルは集客効果が倍近くになるので (2019年に2.7%増 2021–2023に3.2%増)、
それを足し合わせれば経済効果はそれなりの額になります。
充電ステーションは、ただ充電代を集めるだけではなかなか黒字化できませんが、
もし、周辺の企業が共同で出資して充電ステーションを設置すれば、初期投資のうちの一割近くは集客効果で賄うことができる計算です。
どんな条件で集客効果があるのか?
さらに、どのような条件で充電器設置の効果がどのように変化するのかも分析しています。
急速充電器 VS 普通充電器
EVには、急速充電器と、普通充電器があります。
速く充電できるため、より多くの人を呼びよせることができる急速充電器
充電に時間がかかる分、利用者が周辺に滞在し、消費する時間も長い普通充電器、
どちらを設置した方が売上向上効果が大きいのでしょうか?
結果としては、2019年の時点では、急速充電器の効果の方が大きく、
2021年―23年の時点では、普通充電器(レベル2)の効果の方が大きいことが分かりました。
この理由について、
2019年の時点より21-23年の方が、EV自体の性能が高まり、途中で急速充電器を使って充電をする必要が少なくなったことや、
EVに乗る人の層がより広くなったことなどが関係していると著者らは議論しています
(正直に言えば、この辺の議論は自分はあまり筋が通っていると思えないので、理由はよくわかっていないというのが正しいかもしれません)
どのような客が増えるのか?
また、EV充電器は、どのようなEVユーザーを引き付けているのでしょうか?
それを分析するため、(推定された)客の収入に基づいて集客効果を分類しました。
結果として、まず、幅広い所得層の人をEV充電器が集めていることが明らかになりましたが、
2021-2023年(図右)では、その中でも高所得者層への効果が大きいことが分かります。
このことをうまく利用できれば、EV充電器の設置客単価を高めることができるかもしれません。
まとめ
EV充電器を設置すれば人が集まる。
当たり前と言えば当たり前ですが、それを実証的に明らかにしたのがこの研究です。
個人的にいくつか引っかかることもありますが、それでも今まで曖昧だったEV充電器設置の集客効果の裏付けを取ったことには大きな価値があります。
EV充電器設置を検討する商業施設の方などに参考になれば幸いです。
なお、充電器設置の際には、国や地方自治体から支援を受けられる場合があります。
詳しくは以下のリンクからご確認ください。