本当にEV充電器は足りないのか?【徹底解説】

EV普及の壁として指摘されることが多い、充電に対する不安

しかし、現時点でも充電器の数はガソリンスタンドの数に匹敵しているという事実があります。

では、本当にEV用の充電器は足りているのでしょうか?

足りないとすれば、今後改善していく見込みなのでしょうか

充電器の統計データや政策情報から徹底解説します。

充電スポットの数は、既にガソリンスタンドに匹敵

実は、EVを充電できる場所(充電スポット)の数は、ガソリンスタンドの数にかなり近づいています。

GoGoEV によると充電スポットの数は、2024年9月時点で、2.2万か所(22,338か所)

一方のガソリンスタンドは最近低下傾向。昨年度の時点で、2.7万か所(27,414所)とされています。

gogoEVや経産省のデータより著者作成
2021年までの充電スポット数(≠充電基数)の統計を見つけられなかった

つまり、充電スポットの数は, ガソリンスタンドの数の8割にまで普及していて、

10km四方に急速充電器が一つもない「充電空白地帯」も 過疎地などに限られているのです

この数字を見ると「あれ、意外と普及しているな」と思う人が多いでしょう。

多くの人の実感以上に充電器が普及している理由の一つは、

EV用の充電器は、危険物を扱うガソリンとは異なり、屋内駐車場にコンパクトに設置できるため、

ガソリンスタンドより目立たず、今ある充電スポットを見逃していること(GoGoEV で充電スポット検索可)

NISSAN MOTOR CO., LTD. より引用
屋内駐車場で充電する日産リーフ(旧式)

もう一つは、どのような充電器がどこにあるかまで踏まえて考えると、

「便利なEV充電器」の数は、ガソリンスタンドの数を下回るからです。

急速充電器の数は多くない

まず、EV充電器は大きく分けて2種類があります。

たとえば日産リーフを50%充電するのに、半日かかる普通充電器と、約30分で済む急速充電器です。

経済産業省資料から一部改変

なら全て急速充電器で良いじゃないかと思うでしょうが、

莫大な設置費用がかかる(数百万円~数千万)という弱点があります。

そのため、先ほど挙げた2.2万か所の充電スポットのうち、急速充電器が設置されているのは半分以下で、

急速充電器の数は、約一万口とされています。

なお、「口」という単位を使っているように、

一万というのは充電場所の数ではなく、充電器の数(より正確に言えば一度に充電できるEVの数)です。

そのため、高速のSAなど一つの充電スポットに複数の急速充電器がある場合等を考慮すると、急速充電器のある充電スポットの数はさらに少なくなります。

充電の利便性は「充電場所の質」で決まる

また、急速充電でもEVを半分充電するのに30分以上かかるのも多く、普通充電ではさらに時間がかかります。

そのため、「どこでどんなシチュエーションで充電するか」、

つまり「充電時間を過ごしやすい場所で充電できるか?」がその充電スポットの利便性を左右します。

それを加味すると充電器の見た目の数に比べて、充電の利便性は低いと考えられます。

充電器を施設別に分類すると?

充電シチュエーションの分類は、基礎充電 / 経路充電 / 目的地充電 です。

うち、経路充電は、遠出の際に外出先で行う急速充電であり、これは比較的ガソリンスタンドの感覚に近いですが、基礎充電・目的地充電とは何なのでしょうか?

経済産業省資料より引用

基礎充電(≒自宅充電)の底力

基礎充電とは、自宅や職場の駐車場など、日常で車を長く置ける場所での充電です。

EVを利用するならば、自宅へのEV充電器設置はおすすめされます(ただし、「必須」ではありません)。

理由の一つは、自宅充電できるなら、ガソリン車以上に便利になる可能性があること。

自宅で充電している場合は、外での充電と異なり、充電時間は普通に日常を送れば良いだけ。

特に短距離の車利用がほとんどで、EVの航続距離で往復できる範囲を出ないなら自宅充電でほぼ完結するので、ガソリンスタンドに行く必要がない分、むしろEVの方が便利かもしれません

もう一つは、家での充電は、外で充電するよりもガソリン代よりもお得からです。

これは、充電事業者にお金を払う必要もないということもありますし、

自宅での充電は多少時間がかかっても良いので、急速充電器を設置する必要がなく、コスパの良い普通充電器を設置すれば良いということでもあります。

特にコンセントタイプの普通充電器は最も割安な選択肢で、機器代が数千円、設置工事費用が安くて数万円、高くて10万円台で済みます。

自宅の駐車場にコンセントを設置し、EV用の車載充電ケーブルで車とそれをつなぐことで充電します。

コンセントタイプのEV充電器
パナソニックの公式サイトより引用

充電+α!目的地充電

目的地充電、商業施設、宿泊施設などの「目的地」での充電です。

例えば、観光地の宿泊施設にEV充電器があれば、宿泊中に充電できるので、帰りの充電を気にしなくてよくなります。

また、イオンモールのような商業施設にEV充電器があれば買い物中に充電することができるため、便利です。

https://www.flickr.com/photos/nissanev/7168470072/

このような目的地での充電では、急速充電器またはケーブル一体型の普通充電器が主流です。

コンセントタイプでは、車に乗せている充電ケーブルを出して、コンセントと接続する必要があります。

そのような手間を省けるのがケーブル一体型タイプです。

ケーブル一体型タイプのEV充電器
パナソニックの公式サイトより引用

今の充電器は便利な場所にない?

では、現在充電器はどのような場所に普及しているのでしょうか?

実は、急速充電器・普通充電器ともにEV充電器の約3割は自動車ディーラー」にあります。

しかし、自動車ディーラーは、これまでの述べた観点から考えて、便利な立地とは限りませんし、

アンケートなどで「EV充電器が増えてほしい場所」の上位に選ばれることはほとんどありません。

もちろん、交通量の多い場所にあるので遠出の際のちょっとした経路充電には便利ですし、

日産ディーラーの充電器を割安に使えるサブスクサービス等もありますが、

むしろ、充電に便利で、稼働率も高い商業施設や高速道路のような場所でのEV充電器設置の方が重要でしょう。

また、自宅での充電でも、持ち家の一軒家ならば自分で判断して自分で設置すれば良いですが、

マンション・アパートなどでは充電器設置の合意形成などに課題があります。

つまり、EV充電器の総数はガソリンスタンドに既に匹敵するものの、

便利な場所で使いやすい充電器」はまだ少ないと言えるでしょう。

国はどのような充電器普及を目指しているのか

国は公共用(≒自宅用ではない)EV充電器を2030年までに30万口にすることを目指しています。

これは、ガソリンスタンドの数の数倍

もちろん、ガソリンスタンドと同じ感覚でEV用充電器を増やしても決してこの数字にはなりません。

スーパー・コンビニ・ショッピングモール・レジャー施設・道の駅・ホテル――――。

ありとあらゆる場所に充電器を設置していくことが必要です。

それによって「買い物中に充電」「宿泊中に充電」「休憩中に充電」が一般的になり、充電にかかる時間が問題にならなくなる。

その時こそ、本当に「充電器不足」が解消されたといえるのかもしれません。

もちろん、「充電時間そのものを短くしてほしい」と思う人もいるでしょう。

国は、急速充電器を現在の3倍の3万口にする目標も掲げています。

充電器自体の性能向上も進んでいて、充電にかかる時間はより短くなっていくはずです(もちろん、その分割高になる可能性もあります)。

特に高速道路でのEV充電器はEVでの遠出には重要で、2030年を待たずに2025年の時点で数も増え、充電スピードも向上する予定です。

高速道路のEV充電事情、急速改善中!その理由とは

ガソリン車より短いEVの航続距離。 数百キロメートルの遠出をする際には、基本的に途中での充電が必須です。 ここで問題になるのは、サービスエリア(SA)・パーキングエリ…

まとめ

EVに関する充電器の不安は一朝一夕には改善しないかもしれません。

とはいえ、「大都市圏で自宅充電ができるなら、現在の充電器の数でも特に充電に困らない」というのはおそらく事実であり、

地方でも要所要所(道の駅・コンビニ等・SA)に充電器が普及すれば問題はないでしょう。

一方で、自宅で充電器が設置できない場合などはやや不便でしょうが、

「充電器の質」に目をつぶれば、地方であっても外での充電が難しい場所は少ないでしょう。

そして、国の目標を達成できるようなペースでEV充電器が普及すれば、大都市圏から順次「ながら充電」ができる施設が増え、利便性は大きく改善されるはずです。

ただし、その目標が達成できるかは、充電器普及補助金などの具体策の有効性次第。

国や地方自治体の補助金情報をまとめたページは、以下のリンクからご確認ください。

【2024年度】EV充電設備への補助金

電気で走る電気自動車(EV・PHV)にはガソリンを給油する必要がありません。 その代わり、自宅や、外の充電器(充電スタンド)で充電する必要があります。 「EVの利便性は…

自治体のEV政策

47都道府県EV政策総まとめ EV(電気自動車)を普及させようとしているのは、国だけではありません。 県独自・市町村独自のEV支援策も、EV普及を下支えしています。 そこで…

Follow me!