「地方がEV普及で先行している」は嘘。各県の本当のEV普及率を解説

ガソリンスタンドがない市町村、いわばガソリン過疎地が地方で増えている中、

自宅で充電器を設置して充電すればほぼ完結してしまうEVが、その問題の解決策になるのではないか?

実際に、人口あたりのEV普及台数でみると、東京都の普及率は下から数えた方が早く、岐阜県は東京都の2倍に達している―――。


というのが日経一面に載ったある記事の大体の趣旨です。

ガソリンスタンド過疎地域の問題にEVが役立つというのは自分も同意するものの、

「地方がEV普及で先行している」というのは端的に言ってデマに近いです。

この記事では、EV普及データの再分析で、どの県でどの程度EVが普及しているかを解説します。

人口あたりEV普及台数という謎の指標

地方でEV普及が先行しているように見えてしまう理由は、ひとえに「人口あたりEV普及台数」という指標に癖がありすぎるからです。

この指標の不自然さを理解するには、そもそもなぜEV普及が重要なのかを明確にする必要があります。

EV普及の社会的な便益(≒政府や自治体がわざわざ支援する理由)のうち主なものを挙げると、以下の4つになるでしょう。

1. 気候変動対策(電気さえ再生可能エネルギーなら脱炭素化可能)
2. 大気汚染対策(市街地では車からのPM2.5排出が多い)
3. 貿易赤字削減(年20兆円ほどの化石燃料輸入費用を削減する)
4. 停電対策(電力需給バランスの調整、停電時の電力になる?)

ここで、注意すべきことがあります。

1~3の目的に直接的に重要なのは「EVを増やすこと」ではない ということです

気候変動対策・大気汚染対策・貿易赤字削減のために重要なのは

ガソリン車を減らしていくことであり、EVを増やすのはあくまでその手段にすぎません。

EVはガソリン車に比べればCO2排出量は低く、再生可能エネルギーが普及して電気がクリーンになればなるほどもっと低くなりますが、

そもそも、車を使わないことに越したことはありません

大気汚染も貿易赤字も同じです。

もっとも、簡単には車から脱却できないからこそ、日本を含めた世界各国は「現実解」としてEV化を進めているわけですが(欧州の多くの都市では脱クルマも進めています)。

そんな中で、東京都(の大半)は、車を保有しなくても当たり前に生活できる、日本では例外的な場所です。

当然、世帯あたりの車保有率は全国最低。

人口あたりEV普及率は東京都に不当に不利な指標と言えるでしょう。

本来重要なのは、EV車がガソリン車をどの程度代替しているかであり、

各県の車の保有台数のうちどの程度がEVになっているかの方が、より目的にかなった指標になるはずです。

圧倒的な東京。他は大体同じ?

そこで、車検のデータを集めて公開している、自動車検査登録情報協会のデータに基づき、県別のEVの保有台数を、車の保有台数で割ってみました。

するとやはり、東京都が頭一つ抜ける結果に。

2024年3月末現在

ランキングにするとこのようになります。

1.東京 (1.5%)
2.愛知 (1.0%)
3.神奈川 (0.9%)
4.岐阜 (0.8%)
5.京都 (0.8%)

大都市の普及率が高いように見えますが、大阪・埼玉・千葉の普及率は全国平均前後。

一方、北海道、青森、新潟など、雪国として有名な県で敬遠されている印象はありますが、その割には北陸地方の県が健闘しすぎているような気もします。

そこまで地域的な特性が強いようには見えません。

なお、この図のEVの定義には、BEV:狭い意味でのEV(例:日産リーフ) と

PHEV:EVとハイブリッド車の中間のような車(例:トヨタプリウスPHEV)が含まれます。

プラグインハイブリッド車を除いた図も下に載せますが、傾向はあまり変わりません。

強いて言うなら、愛知(BEVが少ないトヨタのお膝元)の存在感が消えることくらいでしょうか?

結局は、補助金次第?

では、何が東京都の強さになっているかを考えると、やはり補助金の手厚さがあるでしょう。

例えば、昨年度の東京の補助金は以下のようになっていて、EVを購入すると、国の補助金に上乗せして50万円前後の補助金がおります

国の補助金に上乗せ! 東京都独自のEV補助金が手厚すぎる

EV等を購入すると、国から最大85万円の補助金をもらえる のはご存じでしょう。 東京都では、都独自の補助金を上乗せすることで、EV等とガソリン車の価格差をさらに縮めて…

この額は日本一です。

例えば、神奈川県の個人用補助金は昨年度は最大20万円で、今年度は廃止されています。

愛知県の市町村も数万~30万程度の補助金を出していますが、50万円以上出すところはありません。

また、全体で見れば、独自の補助金がない県・市町村の方が多いわけで、その差は残酷なまでにEV普及率の数字に現れていると思います。(47都道府県のEV政策はこちらから)。

まとめ

・人口あたりEV普及率は指標として難がある

・EV保有率(車の保有台数に対するEVの保有台数)で見ると東京は圧倒的

・補助金の手厚さが普及を下支え

もちろん、東京都のように潤沢な予算が使えない自治体でも様々な工夫でEVの普及を後押している例はあります。

逆に補助金のごり押しができないゆえに、面白く、革新的なものも多い印象です。

「地方でEV普及が先行している」というのは今のところデマですが、

地方のEV政策の方が面白い」というのは僕は正しいと思いますし、

いつかその成果が形になって「地方でEV普及が先行している」と確信をもって言えるようになればいいなとも思っています。

以下、国や自治体のEV政策について参考なるリンクを挙げておきます。

EV普及に「本気」なのはどの県か?地方自治体のEV普及戦略を解説

日本でも少しずつ普及しつつあるEV(電気自動車)。 普及を陰ながら支えているのは、地方自治体独自のEV政策です。 では、特にどの都道府県が野心的なEV普及を目指してい…

自治体のEV政策

47都道府県EV政策総まとめ EV(電気自動車)を普及させようとしているのは、国だけではありません。 県独自・市町村独自のEV支援策も、EV普及を下支えしています。 そこで…

国のEV政策

国のEV政策について徹底解説。EV補助金から税制優遇、充電器設置補助金まで。

Follow me!