世界のEV化は止まるのか?【Global EV Outlook 2025】

『Global EV Outlook 2025』が今年も発表されました。
普段のニュースでは、EVに関する情報は、どうしても特定の国や特定の側面に偏りがち。
だからこそ、この資料を読み解くことで、EVに関する世界の最新動向などを概観しましょう。
「他の国ではEVがどのくらい進んでいるの?」
「今後の普及や政策の見通しは?」
「EV化で石油や電力の需要はどのくらい変わるの?」など、
この記事でどんどんまとめていきます!
EVは世界の主流に——新車の21%がEV
2024年の世界EV販売台数は前年比25%増の1,700万台を超えました。
これは2020年の年間販売台数を1年の伸びだけで超えた計算で、
世界の新車の5台に1台(21%)はEV になったということです。
さらに、今年は4台に1台以上がEVになる見込みだそうです。
成長を牽引する中国——新車の半数がEV
その成長をけん引するのはやはり中国。
2024年の中国市場では販売された新車の約半分(48%)がEVであり、現在保有される乗用車の10台に1台がすでに電気自動車です。
この普及のスピードは、日本のハイブリッドカーが広まった時よりも速いペースとされています。
その背景には、中国政府によりEVへの優遇政策はもちろん(EV関連産業への中央政府・地方政府の支援や、ナンバープレート取得での優遇措置など。ただし、消費者向けの補助金は既に廃止されている)、
中国メーカーの高い国際競争力があります。
中国では多くの小型BEVがガソリン車の半分程度の価格で売られており、
より高価になりやすいSUVセグメントでもEVがICE(内燃エンジン)車と同等あるいは安い価格が多くなっています。

左の図のEVプレミアムがマイナス→EVの方が安い
バッテリー価格は1年間で約30%も下落し、国内メーカー同士の激しい競争がこの価格競争力に反映されています。
新興国でもEVブーム到来
このような価格競争力があるEVは中国国外でも人気です。
BYDは日本にも進出していますが、
劇的にシェアを伸ばしているのは日本以外の市場。例えば,東南アジアや中南米などの新興国です。
ブラジルではEV販売が前年比2倍の12.5万台となり、市場シェアは6.5%に達しました。
ちなみにこれは日本のEVのシェアを超えています。
タイではガソリン車の融資規制によりEVのシェアが13%に上昇。東南アジア全体では前年同期比の2倍の売れ行きを見せ、主に低価格な中国製EVが支持されています。
日本メーカーにとって重要な市場の一つだけに今後の状況の注視が必要でしょう。
鈍化しつつも後退はしない先進国のEV普及
一方、先進国の市場では、新興国で見られるような急激なEV普及は進んでいません。
この成長の鈍化には、テスラへのボイコット運動や、ドイツでの補助金廃止など、様々な背景がありますが....
逆に言えば、EV普及が「後退」しているわけでもないということ、
EUでも新車の約20%はEV。
米国では連邦税控除(補助金)により、市場シェアは初めて10%を超えました。
もちろん、2022→2024年で新車EV率が下落した先進国もあるにはあるんですが、
それは日本を除けば、だいたい、ドイツ・ニュージーランドなど、補助金を急激に削減した副作用が出ている国です。
EVが石油需要を劇的に削減。一方、電力需要増は相対的に小さい
2024年、世界のEVは日量100万バレル超の石油需要を節約しました。
一日100万バレルもあれば日本中の自動車を走らせることができるので、その節約量の大きさが分かります。
2030年にはこの節約量は日量500万バレルに達する見込みであり、エネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。
とはいえ、その分電気の消費量が増える側面もあります。
では、実際、どの程度増える(増えている)のでしょうか?

現在、最もEVが普及している国の一つである中国では、
現在の電力需要の1.2%がEV用に使われており、2030年には3.6%になる見込みです。
無視できない大きさではありますが、かといって劇的に大きい訳でもありません。
またEV化が進んでいない日本ではわずか0.1%、2030年時点でも0.5%。
「日本ではEV増による電力問題はすぐには表面化しない」と言っても過言ではありません。
世界から見た日本のEV普及
では、世界全体でみたときEV普及における日本の位置づけはどうなっているのでしょうか?
EV生産国としての一応の存在感
EV生産量では圧倒的な存在感がある中国。
それに多少なりとも対抗しうるのは、EU、アメリカ、
そして、Other Asia Pacific(日本や韓国など)で、アメリカ市場へのEV輸出では存在感があります。
ただ、日本単独ではこの図に入れてもらえないのが時代を感じますね....

新興国並みのEV普及率
2024年の新車EV率は2.8%。
これは先進国としては最低水準、新興国としては普通の水準です。
EV補助金などEV優遇措置では他の先進国としてあまり見劣りしないのにこの普及率なのが歯がゆいところ。
もっとも燃費基準は厳しいので、基準の達成のために、各自動車メーカーがハイブリッド車とともにEV化に取り組むことで、EV化が進む可能性も秘めています。
現状の政策では、2030年に新車の20%がEVになると評価されています。
これは、今の世界平均やEU平均に約5年遅れで追いつくだろうということです。
ただし、バイク・スクーターなどの2・3輪車のEV化に関しては健闘していて、
現在も新車の7%がEVであり、これは中国以外のほぼすべての国に負けない水準です。
その背景の一つとして特に東京都の補助金制度が書かれていましたが、
個人的には「静粛性」が求められる住環境の方が関係していると思います。
中国EVの少なさ
また、世界的に見て日本が異常なところの一つは、
中国EVに対する無関税政策を続けているにもかかわらず、ほとんど中国EVが売れていないことです。

先進国の多くは中国EVに対する関税を引き上げています。
一方新興国などはそれをしないことも多いです。
しかし、「無関税にもかかわらず中国EVが売れない」というのは日本に特有な状況だと言えるでしょう。
EV充電器は不足気味か?
かつて日本は、EVが普及していないのに充電器だけは普及している謎の国でした。
それがいまや充電器が国際的もやや少ない国になりつつあります。
この図は公共の充電器一台当たりのEVの数を表している図です。
オーストラリアやニュージーランドなど政権交代でEV普及が急激に進んだ国では、充電器一台当たりのEVの数が70を超え、充電器整備が全く追い付いていないことが分かるでしょう。
一方、中国では、充電器一台あたりのEVの台数がなんと一台。すごい充電器の数があるのが分かります。

その中で、EV充電器一台当たりのEV台数は20程度。
世界平均やEU平均よりも多く、充電器がやや少ない状況だと分かります
しかも充電器の数だけでなく、質でも実は劣っています。
充電器の質の一つが、充電速度(kW)ですが、この指標でみると日本は世界平均の半分程度に。
戦略的な充電器の普及が必要でしょう。
まとめ:日本のEV化への課題と可能性
EVに関する固定観念——「高い」「充電が不便」——は、世界では急速に崩れつつあります。
小型EVの低価格化、新興国での急速な普及、充電器の拡充などが進みつつあります。
日本では依然として「EVは高い、充電が不便」というイメージが根強く、実際、軽以外の国産のコンパクトカー的なEVを買いたいなら高いなど
日本のEV普及は先進国や中国に対して5年以上遅れていますが、
日本の自動車メーカーは海外でも戦わなくてはならない以上、EV化に真正面から向き合うしかないことは明らかでしょう。