EV補助金は廃止されるのか?高市総理発言を読む

高市政権が「EV補助金を一時停止にするのではないか?」という噂が一部で流れています。

この記事ではその真偽を検証します。

結論から言えば、直近では廃止されなさそうです。

高市氏は「EV補助金停止発言」をたびたびしてきた。

そもそも、補助金停止のうわさが出たのは高市氏の発言が原因です。

例えば、高市氏は、今年4月の内外ニュース懇談会では、EV補助金についてこのように述べています。

自動車産業への支援ですが、国のEV補助金で一番得しているのはアメリカのテスラ社や中国のBYD。補助金の一時停止を検討する。報復ではなく、私たちがどう考えるかが1点。

2点目は、自動車取得時に払う環境性能割の課税を2年間停止を検討する。消費者が国内で自動車を非常に買いやすい状態になり、日本の自動車メーカーへの大きな応援になる。財源も、EV補助金の一時停止で浮いた千数百億円があります。自動車購入を促し、少しでも日本の自動車産業の研究開発、技術革新の源を応援したい。

また、動画メディアのPIVOTでも発言しています。

該当部分を書き起こしすると....

1つは、あの、EV補助金。ま、これもあの1台あたり85万円国が出してるお金ですよね。

で、ま、あと東京都に住んでいるとまた別途、東京都で措置されてるものもあります。

でも、ま、これも日本性の自動車にも一定のメリットはあるかもしれませんが、

ま、どちらかといえばその電動車、ま、どちらかといえばその電動車、EV、もう完全にEV車。

つまり、あの、テスラ、アメリカのテスラ、中国のBYD、

こういったところの車にも適用されるものですから、そちらへのメリットが非常に大きいものであって、これは一時停止してもいいかなと思いました。

高市発言はどれだけ「本気か」?

あくまで就任前の発言

まず、大前提で抑えておきたいのは、これらの発言はいずれも「首相就任前」「総裁選開始前」だということ。

たいていの政治家は責任がない立場では結構攻めたことを言い、責任のある立場に入ると少しトーンダウンします。

実際に、「食料品の消費税ゼロ」などは高市総理が就任前に主張してきましたが、総理になってからは後ろ向きの姿勢を示しています。

EV補助金停止がこのようになる可能性もあるでしょう。

そもそも発言は事実誤認に近い

もう一つ、この発言が「本気」だと思えない理由があります。

EV補助金廃止の根拠に筋が通っていないからです。

高市総理の発言では、日本のEV補助金が中国BYDやテスラを利していることになっています。

日本の補助金制度は、むしろ、国産EV優遇の面が強いからです。

日本の補助金は、車種とメーカーによって、補助金額が決まります。

では、最大額90万円がもらえるのはどの車か?

  • トヨタのEV、bZ4X (解説記事はこちら
  • レクサスのEV、UX 300e, RZ300e, RZ 450e

つまり、「トヨタ」なのです (なお、日産アリアやリーフも89万円がもらえます)

一方のBYDは、SEALの45万円が最大。補助金額は半分以下と大差をつけています。

このような補助金額になる背景には、補助金の特殊な計算方法にあります。

日本のEV補助金は、実は車そのものの性能だけで決まりません。

各メーカーを日本政府がどのように評価するかに応じて決まるのです。

クリーンエネルギー自動車の購入補助金がリニューアル、自動車分野のGXをめざせ|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

評価基準の中には、EV充電器設置への取り組みや、ライフサイクル全体での環境負荷の削減、

アフターサービスや、災害時の自治体との協力体制の有無などがあり、

結果的に新参者には不利な仕組みになっています。

中には、

取引適正化(調達先への支払い期間)など、サプライチェーン全体の持続可能性の確保に取り組むこと

のように、明らかにBYDが不利な、しかし、まっとうな評価基準があるので、

結果的にBYDのEVは令和7年度の補助金は低く抑えられました(他が微増しているのに対して現状維持)。

このような政策と、日本の消費者の多くがBYDを敬遠していることにより、

日本では、世界レベルで見ても異常なほどBYDが売れていない国になっています。

結果的に、CEV補助金全体の予算のうちBYD購入者に払われる補助金額はわずか1.7% (国会答弁を参照)

補助金の多くは日本のEV購入者に流れていることになります。

謎の環境性能割廃止論

では、日本の消費者からEV補助金を取り上げて高市氏は何をしたいのか?

「EV補助金で環境性能割を廃止することで、自動車購入を促し、日本の自動車産業の研究開発、技術革新の源を応援したい」いう旨の発言をしています。

これも理解に苦しみます。

環境性能割とは、名前に反して、環境性能が良くない車を購入する際の追加的な税金のことです。

具体的には、「2030年度燃費基準(2030年には平均的に満たしておいてほしい基準)」を十分に達成できていない車にかかります。

EV補助金を廃止して環境性能割を廃止するとどうなるか?

自動車メーカーは、燃費の悪い純ガソリン車を売りやすくなり、逆にハイブリッド車や電気自動車が売りにくくなります。

結果的に、自動車メーカーが技術を向上させるインセンティブが弱くなってしまうのです。

今、世界では、ガソリン車、特に純ガソリン車(ICEV)の販売台数が減っています。

世界の車販売台数は上昇傾向にあるのにもかかわらず。

Executive summary – What Next for the Global Car Industry – Analysis - IEA

そのため、電気自動車(短期的にはハイブリッド車)で世界で勝てなければ、基幹産業としての自動車産業はなくなってしまうでしょう。

総合経済対策に盛り込まれた「EV補助金」

政府もそれは分かっているからこそ、軽々しくEV政策の断念はできません。

実際に2025年の総合経済対策(補正予算の案)にはこのような記述があります。

国際環境の変化を踏まえ、自動車産業の市場の活性化や産業基盤の維持・発展等に配慮しつつ、脱炭素化に積極的に貢献するよう、国・地方の税収中立の下で車体課税の見直しを検討し、令和8年度税制改正において結論を得る。

環境性能に優れたクリーンエネルギー自動車の普及を図ることを目的とし、電気自動車、燃料電池自動車等について、購入費用の一部を補助する。電気自動車等の充電設備等の購入費及び工事費並びに燃料電池自動車等の充てん設備の整備費及び運営費の一部を補助する。

つまり、直近では、EV補助金の廃止はないとみてよいです。

もちろん、長期的にはEV補助金はいつかは廃止され、そのかじ取りを間違えると大変なことになるので注意は必要ですが

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まとめ

EV補助金廃止論を唱えてきた高市総理。

しかし、それは首相就任前の発言。しかも事実誤認に近い認識のもとでの発言でした。

補正予算にもEV補助金は乗りそうなので、EV補助金はしばらく廃止されないと考えられます。

補助金額の詳細は以下のリンクが参考にしてください。

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