そもそも国はどんなEV普及を目指しているのか?【前編】

日本でも静かに進みつつあるEV(電気自動車)の普及。

それを支えているのは、国のEV政策 や、自治体のEV政策 です。

ですが、そもそも、なぜ国は電気自動車等の普及を進めているのでしょうか?

そして、どのように普及を進めようとしているのでしょうか?

この記事では、国の公開資料などから、国の目標やビジョンを読み解いていきます。

「2035年脱ガソリン車」は結局何なのか?

2035年までに新車乗用車を全て電動車 とするというのが日本政府の目標です。

と書くと、約10年後に全ての新車がEVになりそうですが、実はそうではありません

この目標には、良く言えば様々な配慮、悪く言えば様々な抜け穴があります。

では、このような目標は、具体的には、何を意味しているのでしょうか?

「電動車」はハイブリッド車を含む

まず、ここでいう「電動車」はEVとは限りません。

  • 電動車」に含まれるもの
    • 電気自動車(日産リーフ、サクラなど)
    • プラグインハイブリッド自動車(プリウスPHVなど)
    • 燃料電池自動車 (MIRAIなど)
    • ハイブリッド自動車

つまり、2035年までに新車販売ゼロが目指されているのは、

ハイブリッド車以外の純ガソリン車とディーゼル車等に限られるわけです。

「乗用車」以外は目標の対象外

また、この目標が「新車乗用車」に限られている点も注意が必要です。

ざっくり言えば、大きい車ほどEV化は難航しています

小型トラックより、大型の長距離トラックの方がEV化は難しいですし、

土木・農作業用の車両もEV化はあまり進んでいません。

そのため、商用車については、以下のような別の目標があります。

商用車は、小型の車については、新車販売で、2030年までに電動車20~30%、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指す。

大型の車については、2020年代に5,000台の先行導入を目指すとともに、2030年までに2040年の電動車の普及目標を設定

なぜ2035年なのか?

そもそも、目標の年限は、なぜ、2030年でも2040年でもなく、2035年なのでしょうか?

理由の一つは、2035年を目標にしている国が多いからです。

国/地域廃止目標年詳細
ノルウェー2025年乗用車やバンの新車販売をEV等に
EU 2035年乗用車やバンの新車販売を、走行に関する排出量がゼロのものに限定
イギリス2035年乗用車やバンの新車販売をEV等に
カナダ2035年乗用車やバンの新車販売をEV等に
中国2035年新車販売の50%を電動車に
カリフォルニア州など2035年乗用車やバンの新車販売をEV等に
EV等の定義は、電気自動車、プラグインハイブリッド車や、燃料電池車を含まれることが多い
なお、中国は目標はいまいちですが、実際の普及台数では世界一です

そして、多くの国が「2035年」を目標にしているのには理由があります

それは、2050年までの脱炭素社会実現を目指している

車は、新車として世に出てから廃車されるまでに 約15年 かかります。

そして、2050年でもガソリン車が普通に使われているようでは、温室効果ガス排出ゼロは実現できません。

つまり、逆算するなら2035年に新車販売は止める必要があるわけです。

もちろん、EVで脱炭素化するには、製造・走行に使う電気を再生可能エネルギー等で賄う必要がありますが、

2050年までに再エネ等で全電力を賄えないなら、脱炭素社会はそもそも無理なので、大丈夫。

ただし、これはあくまで「理想」の話であり、

日本の目標では、排出ゼロにはできないはずのハイブリッド車を容認しているという抜け穴があり、

他国の目標でも、EV化が比較的容易な乗用車やバン以外への規制の議論は進んでいません。

とはいえ、2035年の脱ガソリン車目標には、一定の根拠があり、撤回するのは難しいことは重要でしょう。

ガソリン車より便利に!?充電インフラ目標

では、国は、どのようにEVを普及させようとしているのでしょうか?

まず、EV購入時の補助金 や、環境性能が高い車への減税措置 があります(詳しくはリンクをクリック)。

そして、最近国が本腰を入れ始めたのが 充電インフラ政策

EVを充電器できる設備を普及させるための政策です。

国は、2030年までに公共用EV充電器を30万口(急速充電器3万口)という目標 を掲げています。

では、この目標の意味することは何でしょうか?

公共用急速充電器「3万口」の意味

公共用急速充電器は、公共用(≒自宅用ではない)急速充電器のこと

つまり、ガソリンスタンドに「近い」感覚で使えるEV充電器です。

今は、自動車ディーラーや高速のサービスエリア(SA)などに点在しています。

公共用急速充電器(SA)

それを「3万口に増やす」という目標が意味しているのは、

ガソリンスタンドに匹敵する数を目指すということです(全国のガソリンスタンドの数は27963か所)

公共用充電器30万口の意味

しかし、急速充電器の数がガソリンスタンドの数に並べばEVはガソリン車よりも便利になるかというと、

実はそうとも言えません。

急速」充電器でも給油よりは時間がかかるからです(サクラなら50kWの充電器でフル充電に30分+α)

そのため、ガソリンスタンドと同じ感覚で急速充電器に通おうとすると、ガソリン車よりもやや不便になってしまうのです。

では、どうするのか?

1.自宅でEVを充電

EV用の充電器は急速充電器だけではありません。普通充電器(安いが遅いEV充電器)もあります・。

普通充電器の中には、数万円から設置できるものもあり(コンセントタイプ)、

自宅に設置すれば、自宅の駐車場に停めている間にEVを充電できます。

ガソリンスタンドで給油しに行く必要も、(遠出以外は)急速充電器で充電する必要もなくなるわけです。

2.日常で訪れる場所で充電

EV充電器の良いところは、危険物を扱うガソリンスタンドと違い、比較的どこでも設置できること。

そのため、様々な施設の駐車場に充電器を設置することが可能です。

日常で訪れる場所に充電器があれば、つまり、わざわざ充電しに行くのでなければ、手間は大きく省けます

例えば、職場の駐車場、商業施設、宿泊施設、コンビニなどが検討されていて、

実際に少しずつ設置が進んでいます。

経済産業省資料より引用

日常のあらゆる場面で「ついでに」EVを充電するとなると、もはや、ガソリンスタンドの数では足りません。

ガソリンスタンドの何倍もの数が必要なります。

それが、公共用充電器30万口(ガソリンスタンドの10倍)の目指しているところになります。

後編:産業政策としてのEV政策

前編は、2030年の脱ガソリン車や、充電器整備目標など、EV普及に関する政策目標を解説しました。

しかし、忘れてはならないのは、日本は自動車産業を抱え、自動車産業に支えられている国であり、

産業政策とEV政策は切っても切り離せないということ。

後編は、自動車生産国としてのEV政策を解説します。

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