「地方自治体のEV普及戦略(2024年版)」を読む

なぜ地方自治体はEV普及を進めるべきなのでしょうか?

地方自治体はどのようにEV普及を促進できるのでしょうか?

それらの疑問に答えるのが、環境エネルギー政策研究所(ISEP)が発表した報告書

地方自治体のEV普及戦略(2024年版)- EV充電インフラ整備ガイドライン」。

この記事では、同報告書の内容について紹介します。

地域にとってのEV普及のメリット

EV普及のメリットとして良く挙げられるのは、環境問題への貢献ですが、

地域視点では別のメリットもあります。

その一つがエネルギー費用の流出の抑制だと言います。

化石燃料の輸出が海外への国富流出を招いている」という指摘は聞いたことがある人が多いと思います。

同様のことは地域レベルでも存在していて、ガソリン代として払うお金の多くは、石油の取れる海外や、地域外の石油関連企業等に流れることになります。

ここで、ガソリンの代わりに電気で車を走らせるになるとその問題が緩和される可能性があります。

日本で石油が取れる地域はほぼありませんが、太陽光発電所等でエネルギーを自給できるポテンシャルのある地域は少なくなく、

地域資本で作られた再生可能エネルギーを地域で活用すればエネルギー代が地域外へ流出するのを最小限にすることができるというのです。

*ただし、地域資本での再生可能エネルギー開発は現実には多くないので、このメリットを活かすには再生可能エネルギーへの地域での投資と同時並行で進める必要があるでしょう。

充電器の主役は自宅や職場での基礎充電

EV政策を進める際、政策担当者が意識すべきなのは、

ガソリン車における給油とEVにおける充電は似ているようで違うことも多いこと。

同報告書は、その点についても解説しています。

EVの充電は、給油に比べれば時間がかかります。他方で、「駐車している時間に充電できる」のがEVの大きな特長です。自家用の乗用車は一般的に一日の9割前後の時間は、どこかに駐車されています

自宅での充電や長時間滞在する先での充電は、充電器を接続する数秒の手間しかかかりません。

高速道路のサービスエリアやパーキングエリア(SA・PA)での充電も、休憩や食事のついでに充電することができます。

EV充電は、自宅や職場などで長時間駐車している間に小さな出力の充電器やコンセントで充電するのが主役です。

自宅や職場で充電できれば、ガソリンスタンドに給油に出かけるよりも、時間や手間の節約ができます。そのため、自宅(集合住宅を含む)や事業所での充電器の普及が重要です。

基礎充電やその他の充電は自分のブログでも紹介しているのでご参照ください。

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EV充電インフラ整備での自治体の役割

では、EV充電インフラ整備に、地方自治体は何ができるのでしょうか?

同報告書では、以下のように整理しています。

土地の提供
自治体は、 EV充電インフラ設置のために、公有地を無償提供または有償で貸し出して整備を促進することができます。

所有者
自治体は、EV充電インフラを自治体が自ら購入設置し、計画的に配置してゆくことができます。

運営者
自治体は、自らEV充電インフラを運営することができますが、ネットワーク化や課金などを考えると民間事業者に運営委託することが一般的です。

計画とゾーニング
自治体は、 EV充電インフラの整備を短中長期で計画し、これを地域における土地利用に割り当てることができます。

制度作りと規制
自治体は、 EV充電インフラの整備促進のための制度や適切に立地・運営されるための規制を
おこなうことも必要です。

公用車のための充電インフラ
自治体は、さまざまな公用車を利用しており、そのEV化を促進するためには、そのためのEV充
電インフラも計画・整備する必要があります。

その上で、同報告書では、地域でのEV普及に向けた取り組みに関する事例を紹介しています。

自分も、47都道府県のEV政策をまとめた他、以下のブログにいくつかの面白い事例をまとめているので良ければご参照ください。

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自治体のEV充電設備設置における留意点

さらに、自治体がEV充電器を設置する際の留意点も同報告書ではまとめています。

道の駅などの駐車場では拡張性にも留意
幹線道路沿いの主要な充電拠点においては、将来的な充電器・受電設備・蓄電池等の配置スペースや、大型EVや牽引時の充電まで考慮した広さや駐車場の構造にすると共に、配管スペースも確保しておくことがお勧めです。相対的に、短時間の駐車に対しては高出力(大型)の充電器を少数配置し、長時間の駐車に対しては低出力(小型)の充電器やEV用コンセントを多めに配置します。豪雪地では、除雪作業と干渉しないように配置します。

充電設備への太陽光発電の併設を促進
充電設備に太陽光発電と蓄電池を併設すると、その電力でEVを充電した分、エネルギー購入のために流出するお金を自治体の中に留められます。また、非常時の電源にもできます。投資額は大きくなりますが、併設している住宅や集客施設への給電と共に検討する価値があるでしょう。

配電線の増強
幹線道路沿いの充電拠点等では近い将来、配電線の増強が必要なケースが考えられます。大型のトラックやバスもEV化した場合、幹線道路沿いの充電拠点や営業所等において、高圧配電線(6.6kV、2MWまで)では容量が不足し、11kVや22kVの特別高圧での配電が必要になる場合が考えられます。また重機や農機がEV化すると、対応する充電インフラが必要になります。配電線や変電所の増強には年数がかかりますので、早めに地域の電力会社に相談しましょう。

電欠救出への備え
降雪や事故による幹線道路での長時間の閉じ込めなどで、ガス欠ならぬ「電欠」になった車両が一度にたくさん発生した場合への備えが必要になります。汎用の災害対策を兼ねて、携行型のバッテリー式のEV充電器や充電器搭載の車両を備えておき、救出手順も検討しておくと良いでしょう。救出後の充電をスムーズにするため、幹線道路沿いに一定距離以下の間隔で充電器を整備しておくのも大事です。

安全性とユニバーサルデザイン
また最近では安全性や利便性に対する対応の要望が増加し充電設置にかかわる新しい規制や推奨仕様が定義されてきています。安全対策としては衝突防止の策の設定や利便性の向上には高齢者や障碍者への配慮を考慮したユニバーサルデザインの推奨仕様が定義されています。

さらに、同報告書では、EVに関するFAQや、充電サービス事業者の一覧まで書いてあります。

まとめ

地方自治体のEV普及戦略ガイドライン(2024年版)」は、地域が主体的に未来の持続可能な交通を築くためのEV政策入門として優れています。

自治体が取り組むべき具体的な戦略と充実した事例が示されており、地域社会における環境負荷の低減や防災機能の強化に繋がるでしょう。

地方自治体のEV普及戦略(2024年版) — EV充電インフラ整備ガイドライン | ISEP 環境エネルギー政策研究所

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ISEPとは全く関係ない私も地域のEV政策には注目していて、47都道府県のEV政策をまとめたサイトを作るなどしています。興味があればご覧ください。

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