「ガソリン税は逆進的?」→調べてみたら逆だった

クルマと税に関する議論ほど、印象論がまかり通るテーマは中々ありません。
例えば「日本は車への税金が世界一高い」というのは真っ赤な嘘。むしろ、他の先進国より安いほどです。
そんな中で、最近取りざたされているのが、ガソリン税暫定税率の廃止を巡る議論。
「ただでさえ国際的には安い日本のガソリン価格をこれ以上安くしてどうするんだ」という話で、環境問題の観点から廃止には大きな問題があるのは明らかですが、
「物価高対策」としても大きな問題があります。
ガソリン税はむしろ累進的な税金なので、ガソリン税を減税しても、
低所得者層の暮らしはほとんど楽にならない、格差を広げてしまう ということです。
逆進性とは何か?
一般に「逆進性」とは貧しい人ほど税負担が相対的に重くなる性質を指します。
ある日、日本国民全員から10万円を徴収したとします。
10万円は、低所得者の生活がまわらなくなるには十分なお金ですが、
逆に、その日の株価で資産が1000万円単位で変わるような大金持ちには「はした金」ですよね
また、お米にかかる消費税などは、低所得者層もお金持ちも主食を食べる量は大差がないので、
結果的に、低所得者層の負担が大きくなります。
このような税金は、低所得者層の負担が大きいので特に反対されやすい税金になります。
ガソリンもある意味「生活必需品」であり、ガソリン税は同じリッターを買えば所得に関係なく同じ税額を払うため、低所得層が不利になると思うでしょう。
しかし、実態は違ったのです。
ガソリン税の逆進性を調べる
では、どのように税の逆進性は、どのように計算できるのでしょうか?
データとして使ったのは、総務省の公開している家計調査(家計収支編)。
「どの程度の年収の人が何にお金を使っているか」を網羅的にまとめた統計資料です。
その支出項目の中に「ガソリン代」という項目があります。
ガソリン1Lあたりのガソリン税やガソリン税暫定税率は一定なので、ガソリン価格だけ分かれば(リッター175円に設定)、人々が年間払っているガソリン税を算出できるのです。
あとは、人々が一年で使うお金のうちガソリン税が占める割合を計算するだけ(この計算方法は、総支出ベースの計算と言われます)。
結果、低所得者層ほど負担は小さい
その結果をグラフにまとめると以下のようになります。

このQ1~Q5は所得階級、つまり、どの程度年収が高いかを表しています。
世帯年収は、Q1で235万円以下、Q2で235から360万円、Q3で360から523万円、Q4で523から768万円、Q5で768万円以上 となっていて、それぞれが全世帯の20%を占めています。
このグラフが(おおむね)右肩上がりだということは、
所得が高いほど支出に占めるガソリン代・ガソリン税の割合が大きい ことを意味しています。
世帯年収が235万円以下の人は、平均して一年間の出費のうち、ガソリン代に1.5%、暫定税率に0.21%を当てています。
世帯年収が523から768万円の人の負担感はその約1.5倍。ガソリン代に2.2%、暫定税率分に0.32%を使っています。
ちなみに「逆進性が高い」と言われる食料品への消費税の場合は同じ計算でどうなるかをグラフ化してみると

綺麗な右肩下がり、つまり低所得者ほど食料品の負担感が大きい結果となりました。
比較してみると、いかにガソリン税の逆進性が少ないか、分かりますね。
見過ごされている「地方の中の格差」
こうなる理由は単純。
高所得者層ほどたくさん自家用車で移動する一方で、低所得者層は地方でも車を持てない、あるいは使う頻度が少ない傾向にあるからです。
北海道ですら車は一家に一台以下?
地方に行くほど車は生活必需品だと言います。
そういう面は確かにあります。しかし、自家用車保有率はそれだけでは決まりません。
例えば、日本で最も自家用車が普及している都道府県は最も人口密度が低い北海道、ではありません。
むしろ北海道は、1世帯あたりの平均自家用車保有台数は1台を切っています。
複数台保有している世帯も多いので、保有していない世帯がそれなりにいるということです。

東京都心でも車を持つ人たち
一方、多くの地域で自家用車なしでの生活に不便がない東京都でも自家用車を保有している人はいます。
都心に近いほど駐車場代も高く、自家用車を使う必要性も薄い。
そのような状況で都心で車を日常的に使うのは高所得者層に偏り、結果的に高級外車ばかりの場所もあります。
歩く人、シャアサイクルや電動キックボードで移動する人、バスに乗る人、タクシーを使う人、自家用車を使う人。
手段が多様だからこそ、どのような交通手段を使うかに経済的・社会的格差が出てしまう面もあります。
車の話をするときには、地域間格差が注目されますが、地域内格差も忘れてはならないのです。
ガソリン税よりも「まっとうな税」はあるのか?
結果的に、ガソリン税を減税すると、その恩恵は中高所得者層に集中することになります。
所得が年間235万円以下の世帯にとって平均年3500円程度ですが(月300円程度)、年768万円以上の世帯はその4倍近く、12000円以上が浮くことになります。

別の言い方をすれば、ガソリン税暫定税率の廃止は国と地方で約1.5兆円の減税ですが、
その恩恵の30%以上を所得上位20%の層が享受できる一方で、所得下位20%の層はその恩恵の10%も受けられません。
(おおむね)累進的な税金を下げる以上、必然的にその恩恵は低所得者層にはなかなか来ない。
むしろ経済的格差を少し広げてしまう効果があるのです。
そもそも、ガソリン税やそれに類する税金は、
「ガソリンを燃やすことによる環境問題悪化のコスト」や「人口減少社会で道路を維持するコスト」を、ガソリンを使った人が使った分だけ負担するという意味で、フェアな仕組みだとも言えます。
もっとも、ガソリン税の税収は年2兆円程度しかなく、年四兆円以上かかる地方自治体の道路新設・維持コストさえ賄えないのですが(環境問題の費用は言わずもがなです)
これを減らすとなると、自家用車を全く or ほとんど使っていない人の負担が増えることになります。
他の税金の増税に繋がったり、他の税を減税する機会が失われたり、予算が削られたり、あるいは赤字国債の発行で円安やインフレのリスクが上がったり。
それらを自家用車をあまり使っていない低所得者層が負担するというのはおかしな話ではあります。
ガソリン税減税を主張する人も反対する人も、ガソリン税の制度的な建付け(暫定だけど長期化している;一般財源化)はともかく、
「自家用車の利用量に応じた税金」というのが、環境問題はもちろん、受益者負担や累進性の観点からもおおむね「まっとうな」税金であることを直視し、より良い制度を考えるべきではないでしょうか?

