なぜ車には税金がかかるのか?EV化でどう変わるのか?

EVへの課税強化、環境性能割廃止論。
総務省がとりまとめ、2025年11月に公表された「自動車関係税制のあり方に関する検討会」報告書は、日本の自動車税制を大きく見直す重要な内容を含んでいます。
本記事では、報告書のポイントをわかりやすく解説し、今後の自動車税制がどの方向に進むのかをまとめました。
そもそもなぜ車には税金がかかるのか?
皆さん知っての通り、車には様々な税金がかかります。
購入時には消費税に加えて環境性能割、車検ごとに自動車税や重量税、燃料にはガソリン税など。
これらの総額は、先進国に比ると安い方ではあるのですが、
そもそも、なぜ車にはこれだけの税金がかかっているのでしょうか?
それには大きく分けて3つの理由があります。
「車を買える人は税金も払える」と考えられるから
車を買い、維持し続けるのにはそれなりのコストがかかります。
「車が生活必需品となっている」という感覚を持つ人が多い現代の日本であっても、
高所得な人ほどガソリンの消費が多く、低所得者層ほど車を持たず、あるいは、持っていても使う量が少ないという関係があります。
それゆえに、車を買えるなら税金を払うことも可能だろう(破産はしないだろう)ということで、政府は車へ課税している面もあります。
もちろん、「払うことが可能」にもグレードがあるので、
排気量が大きい(より高価)なものほど自動車税は高くなるという性質があります。
環境性能割も環境性能と車の価格に比例して課税されるので、基本的に高価な車ほど税額は高いですよね
車は道路を傷つけるから
忘れがちですが、車は走行することで道路を摩耗させます。
そして、ほとんどの道は、国や地方自治体が税金によって設置・維持しているものです。
これはよく考えるとすごい(ずるい)話です。
同じ「道」でも、鉄道は、原則、民間企業が自力で整備しなくてはならないのですからね。
道路の老朽化への対応が迫られ、さらに地方の税収も伸び悩む中では、車を保有・使用する人が自動車関連の税金を払うの当たり前。
むしろ、現在の税額では足らず、もっと税金を上げるべきかもしれないのです。
特に地方自治体視点では、自動車関連の税収は、自動車関連の行政サービスの支出を下回っているのですから

ただし、(地方自治体の赤字を一切無視した)国単独の視点で見ると、国は全国の道路のうち3%の道路しか整備していないので赤字ではなくなるというギャップがあります。
だから、もっと税金を下げられるんじゃないか、という人は多いのですが、
政府が車の税金を下げてしまうと、地方への配慮がない限り、地方に入る車の税金も下がってしまいます。
一見地方に有利なガソリン暫定税率廃止に、地方の代表たる地方自治体が懸念を表明し続けてきたのはこのような背景があるのです。。
地方六団体及び指定都市市長会が『いわゆる「ガソリンの暫定税率」廃止に関する緊急提言』について要請活動を実施しました/地方六団体/全国知事会
車には環境負荷があるから
ガソリン車・ディーゼル車などは走行時に
- CO₂(温室効果ガス)
- NOx・PMなどの大気汚染物質
を発生させ、環境や健康に負荷を与えます。
これは自動車に一切乗らない、あるいは障害などで乗れない人も悪影響を受けるという性質があります。
受動喫煙があるからこそタバコに重税がかかるのと、問題の構造は似ています。
自動車を使う人が環境負荷の分を税金の形で負担して、気候変動への備えに使うべきでしょう。
実際に、環境負荷が高い車(排気量が多い、燃費基準を満たしていない)は、自動車税などが高額に設定されています。
そして、気候変動問題はもちろん、大気汚染問題も現在の日本でも重要な問題であることを忘れてはいけません。
かつての公害のように、「ある病の原因が大気汚染だけだ」と言えるケースはもう少ないでしょうが、
下気道感染症や虚血性心疾患など、様々な病がPM2.5などの大気汚染物質によって悪化します。
結果的に、地方の医療リソースを圧迫しているという面もあります(PM2.5汚染による社会経済的コストと不均衡な医療資源の影響 ―高齢化社会における地域間格差の検証―)

Rising socio-economic costs of PM2.5 pollution and medical service mismatching | Nature Sustainability
EV化で何が変わるのか?
このような背景を踏まえると、EVが主流になる時代の税制が見えてきます。
現在電気自動車は、自動車関連の税金が非常に低く抑えられています。
排気量ゼロなので、自動車税は最低額。
自動車重量税は初回だけ減免(エコカー減税)。
環境性能割は追加負担なし。

いくら電気自動車の環境への負担が低いからと言ってこれはやりすぎではあって、
EV普及を促すための一時的な優遇措置と見るべきでしょう。
特に、高級車で、重量が重い車の場合には、
「クルマを買える人は税金も払えるから」「車は道路を傷つけるから」という理由で課税されてしかるべきでしょう。
だからこそ、この報告書では、
「車両重量」を基準に、高級EVを中心に課税していこうということが提案されています。
実際に重いEVほど高級で、安いEVは比較的軽い、という関係性は強力にあることも背景にあります。
つまり、車両重量を基準にするにもかかわらず「道路の損傷があるから」という理由だけでEVに課税するわけではない、というのがこの報告書のロジックです。
本当に「車両重量」を基準に課税するなら、乗用車の間の違いよりも、トラックなどによるダメージの方がよっぽど大きいので、トラックへの税金を10倍以上にすべきですからね。
「環境性能割」を堅持せよ?
一方で、この報告書には、「EV普及にプラスな要素」も書いてあります。
それが、環境性能割の維持を主張したことです。
環境性能割とは、燃費の悪い車を買う時に払う車体価格の0-3%の税金のこと。
「燃費の悪い車」の基準は、2030年に満たすべき基準の何パーセントを達成できるかで評価され、95%以上満たしていれば免税されます。
結果的に、EVはもちろん、新しいハイブリッド車のほとんどは免税され、逆にガソリン車ではほとんど免税されるケースはありません。
環境に良い車を普及させる、環境に良い自動車を作るインセンティブをメーカーに与える重要な制度になっています。
衝撃的というべきか、当然というべきか、この環境性能割を廃止することを自動車業界は主張してきました。
例えば、日本自動車連盟JAFは、自動車ユーザーへのアンケートを実施して、環境性能割を6割が廃止すべきと答えているなどの根拠を基に、廃止を訴えました。
だれしも自分の払う税金は少ない方がいいと思うのが当たり前なので、それを政策への根拠にされるのはよくわからないですが……。
結局、総務省のとりまとめでは、環境性能割廃止論は完全に退けられています。
○ 環境性能割は、自動車の購入段階で環境インセンティブ機能を発揮する唯一の恒久的な政策手法であり、環境性能の高い電動車の生産を奨励する、自動車メーカーの国際競争力の維持・強化にも資する税制
◯保有段階の課税の見直しに先行した環境性能割の廃止は、①カーボンニュートラルに逆行し、②与党大綱の「税収中立」にも反することから適当でない。
◯「2035年までに新車販売で電動車100%化」の政府目標と整合するよう、環境性能の高い電動車に環境性能割を優遇して取得時の負担軽減を図る一方、非電動車には現在以上の高い税率区分を適用すべき。
ここまで言われても、まだ消えないのが、環境性能割廃止論の恐ろしさ。
政治の側から廃止を目指す動きが進んでいます(自動車「環境性能割」廃止へ 政府・与党 購入時の負担抑え購買意欲を促進)
ハイブリッド車が世界で売れるようになり、EVも堅調な増加を続けている世界。
一方、純ガソリン車(ICEV)の需要は減少しています。世界の車販売台数は上昇傾向にあるのにもかかわらず。

そのため、短期的にはハイブリッド車でも稼ぎつつ、最終的には電気自動車で世界で勝てなければ、基幹産業としての自動車産業はなくなってしまうでしょう。
自動車産業の未来を考えたら、日本メーカーにはもっと、環境性能の良い車に投資してもらいたいタイミングだと思うのですが、
このタイミングで、環境技術に投資するインセンティブを減らすような政策を打とうとする理由が分かりません。
まとめ
車に関する税金の話は、身近なようで、全体像をしっかり把握している人が少ないからこそ、
よく炎上してしまうテーマですが、
車に税金がかかる3つの理由、
- 「車を買える人は税金も払える」と考えられるから
- 車は道路を傷つけるから
- 車には環境負荷があるから
これをしっかり踏まえた上で、時代に合わせた税制を模索していきたいですね。
