クルマにかかる税金、実は日本は安かった

日本の自動車への税金は世界一高い」と耳にすることがありますが、これは本当なのでしょうか?

日本と他国の税制を比較してみると、決してそうとは言えないことが明らかになってきました。

日本の自動車関連の税金は「世界一高い」?

まず、日本の自動車税は「世界一高いレベル」という説の発信元はどこなのでしょうか?

豊田氏の発言の新聞記事などこのような主張は流布しているようですが、しっかり根拠を持って書かれているのは、

日本自動車工業会(自動車メーカーの業界団体)の出している以下の資料です。

日本自動車工業会より引用

この資料によると、

「自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)」。

日本の自動車にかかる税は諸外国の数倍のようです。

ただし、この資料にはあるツッコミどころがあります。

自動車特有の税金は確かに多いが....

まず、問題なのは、「自動車特有の税金」のみをここに上げていることでしょう。

自動車を購入・所有する際の、自動車税種別割、自動車重量税、自動車環境性能割。

さらに、使う時には、揮発油税(ガソリン税)、地方揮発油税、石油石炭税(温対税)などがあります。

しかし、これだけではありません。

車にかかる一番重要な税金が他にあり、先ほどのグラフからも省かれていることにお気づきでしょうか。

それが「消費税」です。

欧州諸国は、付加価値税(≒消費税)が高い

車を所有したり、ガソリンを買ったりするときに、私たちは消費税を払います。

ここで重要なのは、自動車関連の税金が少ないとされる欧州諸国では、付加価値税(消費税)がずっと高い、ということです。

付加価値税の税率は以下のようになっています。

フランス20%
ドイツ19%
イタリア22%
イギリス20%

そのため、欧州で車を所有する際には、日本の消費税の約2倍の額を払う必要があり、

これにより、車にかかる税金の総額は逆転、日本の方が安い計算になります。

みずほ情報総研:車体課税制度のグリーン化及び今後の見通しに関する国際比較調査・分析等委託

実際に、東京都がみずほ情報総研に委託した調査等によると、付加価値税を含めるとドイツや英国の税負担は日本を上回るとのことです。

車は「軽減税率の対象外」という重み

しかし、付加価値税(消費税)を加えた議論に納得しない人もいるでしょう。

付加価値税の負担は自動的に決まるのだから、そこを比べても意味がないのではないか、と。

ここで考慮すべきは、欧州では付加価値税の税率が高い代わりに軽減税率が充実していて、

食料品や医薬品、書籍、教育、公共交通などが軽減税率の対象になることが多い中で、

自家用車の所有は軽減税率の対象ではない」と判断されたことです。

つまり、自家用車に高い税率を適用することを欧州各国は選んだのだ、といっても過言ではありません。

日本のガソリンと税金は高くない

また、車の維持費の多くを占める燃料にかかる税金も、実は日本は安い傾向にあります。

実際に、ガソリンの価格や、税負担額、税負担率など全ての水準において、OECD加盟国(先進国)の中で下から数えた方が早く、

先進国としてはガソリンにかかる税金が安いのです。

引用:財務省

先ほど述べた通り、これには日本の付加価値税が欧州より安いことも背景にありますが、

ガソリン税に相当するエネルギー税や炭素税の税率が高いことも背景にあります。

日本のガソリンにかかる税金は、何個もあるので、負担感としては大きいですが、

一つ一つを見てみると、国際的には高くない、むしろ「安すぎる」ものもあります

たとえば、石油・石炭税(地球温暖化対策税)の税率はCO2排出1トンあたり298円、

しかし、CO2排出による気候変動の被害額は、この程度ではすみません

計算の仕方によって変わりますが、低く見積もっても1トンあたり25ドル(約4000円)、高く見積もるなら約200ドル(約30000円)

本来、CO2に対する税金は、これらの水準、つまり現在の10倍以上にまで高める必要があるとされています。

そして、それに近い水準の炭素税やエネルギー税を導入している多くの先進国と比べると、日本の税金は高すぎるどころか、むしろ「安すぎる」のです。

まとめ

このように、車にかかる日本の税金は先進国の中では必ずしも高い水準ではありません。

確かに車特有の日本の税金は数が多く、負担感はとても高いでしょうが、

欧州諸国に比べて付加価値税が安く、ガソリンにかかる税金も安いために、総合的には欧州諸国より低い税負担額になっています。さらに、軽自動車では、税負担額はさらに小さくなります。

もっとも、アメリカ・カナダに比べれば、上の要素を考慮しても車にかかる税金が高いのも事実であり、

最終的には、車にかかる税金をどうすべきかは「私たちがどのような社会に住みたいか」によって変わります。

交通は社会を変える力があります。

クルマ社会では、比較的どこでも住みやすい代わりに、人が散らばるので今後インフラの維持は困難になります。現にアメリカのインフラはかなり悲惨です(もちろんそれだけが理由ではありませんが)。

逆にクルマにかかる税金を上げて車の依存度を減らしていく社会ではコンパクトシティ化が進むでしょう。

インフラの維持はより容易になる一方で、土地利用はより厳格に規制されていくことになります。現に一部欧州諸国はそれに近づきつつあります。

「ガソリン価格が高いから」「二重課税などの細かな制度的不備(?)があるから」などの理由で、車やガソリンにかかる税金を下げようと主張するのではなく、

住みたい社会を想像して、制度を語ることが今必要とされているのです。

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